大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(ラ)73号 決定 1985年4月05日

抗告人

宇佐見圭爾

右代理人

雨宮正彦

抗告人

橘高株式会社

右代表者

藤井照久

右代理人

上坂明

永嶋靖久

主文

一  抗告人宇佐美圭爾の抗告を棄却する。

二  東京地方裁判所が昭和五九年一二月二六日、別紙目録(二)・(四)の不動産については十二支商事株式会社に対し、同(三)の不動産については新日工営株式会社に対してなした売却許可決定を取消し、右各売却を許さない。

理由

一抗告人宇佐美圭爾及び同橘高株式会社(以下橘高という)の抗告の趣旨・理由は別紙執行抗告状(昭和五九年一二月二六日昭和六〇年一月四日付)及び執行抗告理由補充書(昭和五九年一二月二八日昭和六〇年一月一一日付)記載のとおりである。

二一件記録によれば、物件明細書には別紙目録(一)の不動産(以下、(一)の不動産という。以下同じ。)を物件番号(1)、(二)の不動産(いわゆる分譲マンション)のうち、土地についての共有持分を同番号(2)のイ、専有部分の建物を同番号(3)、(三)の不動産(前同)のうち、土地についての共有持分を同番号(2)のロ、専有部分の建物を同番号(4)、(四)の不動産(前同)のうち、土地についての共有持分を同番号(2)のハ、専有部分の建物を同番号(5)と定められ、右(2)のイと(3)、(2)のロと(4)、(2)のハと(5)はいずれも「物件一括売却」と記載されていること、原裁判所は、本件不動産競売について、評価人の評価に基づき、本件不動産の物件番号、最低売却価額、買受申出の保証の額につき

(一)の不動産は物件番号1、最低売却価額金五八八〇万円、

買受申出の保証の額金一一七六万円

(二)の不動産は前同2のイ、3、前同金五二六万二〇〇〇円、前同金一〇五万三〇〇〇円

(三)の不動産は前同2のロ、4、前同金五二六万二〇〇〇円、前同金一〇五万三〇〇〇円

(四)の不動産は前同2のハ、5、前同金五三一万六〇〇〇円、前同金一〇六万四〇〇〇円

と定め、期間入札の方法により売却することとし、入札期日は昭和五九年一二月五日から同年同月一二日まで、開札期日は同年同月一九日午前一一時、売却決定期日は同年同月二六日午前一〇時と定めたこと、そして、原裁判所書記官は同年一一月一五日、前記物件明細書、評価書等の写しを閲覧室に備えて置くとともに(一)ないし(四)の不動産については物件番号、最低売却価額、買受申出の保証の額について右のとおり記載した期間入札の公告をなしたこと、抗告人橘高は、同年同月五日、入札書に、

(一)の不動産につき、入札価額は金八三〇〇万円、保証金額は金一一七六万円、物件番号は1

(二)の不動産につき、入札価額は金七三〇万円、保証金額は金一〇五万三〇〇〇円、物件番号は2のイ

(三)の不動産につき、入札価額は金七三〇万円、保証金額は金一〇五万三〇〇円、物件番号は2のロ

(四)の不動産につき、入札価額は金七七〇万円、保証金額は金一〇六万四〇〇〇円、物件番号は2のハ

但し、事件番号はいずれも昭和五七年(ケ)第一九〇〇号

と各記載し、これをそれぞれ封筒に入れて原裁判所執行官に提出したこと、但し、右(二)ないし(四)の不動産についての入札書には物件番号として「3」、「4」、「5」の記載がないこと、そのため、原裁判所執行官は、抗告人橘高が提出した本件(二)ないし(四)の不動産についての入札書には、いずれも物件番号の記載に欠落があるとして、これを開札に加えなかつたこと、ところで、本件入札には、抗告人橘高のほかに、

(一)の不動産については、

新日工営株式会社が入札価額金七一一〇万一〇〇〇円

株式会社バンエンタープライズが入札価額金六二〇六万円

株式会社モリモトが入札価額金六〇六八万円

但し、保証金額はいずれも金一一七六万円

(二)の不動産については、

十二支商事株式会社が入札価額金六五二万九〇〇〇円

新日工営株式会社が入札価額金六三一万一〇〇〇円

株式会社トーシンホームが入札価額金五八八万八〇〇〇円

川崎昇が入札価額金五七五万円

さくら興産株式会社が入札価額金五五八万九〇〇〇円

但し、保証金額はいずれも金一〇五万三〇〇〇円

(三)の不動産については、

新日工営株式会社が入札価額金六三一万一〇〇〇円

十二支商事株式会社が入札価額金六二七万九〇〇〇円

株式会社トーシンホームが入札価額金五八八万八〇〇〇円

さくら興産株式会社が入札価額金五七八万九〇〇〇円

川崎昇が入札価額金五七五万円

株式会社ジャパンエステートが入札価額金五三〇万一〇〇〇円

但し、保証金額はいずれも金一〇五万三〇〇〇円

(四)の不動産については、

十二支商事株式会社が入札価額金六八〇万九〇〇〇円

小林昭夫が入札価額金六五一万円

新日工営株式会社が入札価額金六四〇万一〇〇〇円

株式会社トーシンホームが入札価額金六三八万八〇〇〇円

菅原幸道が入札価額金六二三万二〇〇〇円

さくら興産株式会社が入札価額金五八五万九〇〇〇円

村川和広が入札価額金五三五万円

但し、保証金額はいずれも金一〇六万四〇〇〇円

でそれぞれ参加したこと、そこで、原裁判所執行官は、(一)の不動産については抗告人橘高、(二)・(四)の不動産については十二支商事株式会社、(三)の不動産については新日工営株式会社をもつて最高価買受人として期間入札調書を作成したこと、原裁判所は、これに基づき、右抗告人橘高、十二支商事株式会社、新日工営株式会社を、それぞれ最高価買受申出人として、いずれも同年同月二六日、本件売却許可決定をしたこと以上の事実を認めることができる。

三抗告人宇佐見は、本件競売物件の評価書の評価方法に如何なる誤りがあるのか具体的に何ら主張せず、単に評価額算定の基礎とすべき土地及び建物の一平方メートル当りの単価が低廉であると主張するのみで、その額を不当とする合理的な主張もない。

本件記録を精査しても評価方法に過誤を見出すことはできないし、右評価に基づいて定められた最低売却価額が不当に低廉で著しく不相当であるとも認められない。

四しかし、前記二の認定事実によれば、抗告人橘高が提出した右入札書の物件番号欄は(二)の不動産については「2のイ」、(三)の不動産については「2のロ」、(四)の不動産については「2のハ」という記載のみで、「3」、「4」、「5」の記載はないが、いわゆる一棟のマンションの敷地部分に相当する土地の共有持分のみを売却ないし買受けることは稀有な事例であり、現に、閲覧に供した物件明細書にも「(2)の(イ)と(3)」、「(2)の(ロ)と(4)」、「(2)の(ハ)と(5)」はいずれも「物件一括売却」と表示されていたのであるから、抗告人橘高において、その主旨の売却であると考え、かつ同旨の買受けであると表示したものと推認することができ、右事実に、本件各入札書の保証金額がいずれも期間入札の公告に記載されている買受申出の保証の額と一致することを総合的に考慮すると、本件各入札書の物件番号「2のイ」、「2のロ」、「2のハ」の記載から当然(二)、(三)、(四)の不動産の入札申込みと読み取ることができたというべきである。してみれば、物件番号として「3」、「4」、「5」の記載のない本件各入札書が法律専門家である弁護士によつて作成されたという事実を勘案しても、物件番号「2のイ」、「2のロ」、「2のハ」の記載をもつて(二)・(三)・(四)の不動産の入札として特定されているものと認めるのが相当である。

したがつて、「3」、「4」、「5」の記載がないことをもつて物件番号欠落とし、本件各入札書を無効として抗告人橘高を本件入札から除外したことは違法とはいわなければならない。

五以上のとおりであるから、抗告人宇佐美の主張は理由がないから棄却することとし、抗告人橘高の主張は理由があり、(二)・(三)・(四)の不動産についての原決定は違法であるから、これを取消し、(二)・(四)の不動産については十二支商事株式会社に、(三)の不動産については新日工営株式会社に対する各売却を許さないこととし、主文のとおり決定する。

(田中永司 宍戸清七 笹村將文)

目  録

(一) 東京都世田谷区代田一丁目三九二番地二

家屋番号 三九二番二の二

木造瓦葺二階建居宅

床面積

一階 九七・三九平方メートル

二階 二七・三二平方メートル

(二) 東京都大田区東六郷三丁目一五番二

宅地 一四七八・二六平方メートル

(持分一万分の三五)

一棟の建物の表示

同所同番地二

鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根一四階建

一階 一九八・二八平方メートル

二階 七四八・五九平方メートル

三階 七四八・五九平方メートル

四階 七四八・五九平方メートル

五階 七四八・五九平方メートル

六階 七四八・五九平方メートル

七階 七三六・五九平方メートル

八階 七三六・五九平方メートル

九階 七三六・五九平方メートル

一〇階 七三六・五九平方メートル

一一階 七三六・五九平方メートル

一二階 六九八・九二平方メートル

一三階 六六九・一三平方メートル

一四階 六三四・四三平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号 東六郷三丁目一五番二の五六

建物の番号 五〇三

鉄骨鉄筋コンクリート造一階建居宅

床面積

五階部分 二八・八三平方メートル

(三) 東京都大田区東六郷三丁目一五番二

宅地 一四七八・二六平方メートル

(持分一万分の三五)

一棟の建物の表示

前 同

専有部分の建物の表示

家屋番号 東六郷三丁目一五番二の八二

建物の番号 七〇三

鉄骨鉄筋コンクリート造一階建居宅

床面積

七階部分 二八・八三平方メートル

(四) 東京都大田区東六郷三丁目一五番二

宅地 一四七八・二六平方メートル

(持分一万分の四三)

一棟の建物の表示

前 同

専有部分の建物の表示

家屋番号 東六郷三丁目一五番二の九九

建物の番号 八〇八

鉄骨鉄筋コンクリート造一階建居宅

床面積

八階部分 三四・八七平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例